医療機器、開業時にすべて揃えるのはNG?キャッシュフローを圧迫しない設備投資の順番

新たに医師として独立開業を目指すとき、医療機器への投資は重要な決断の一つとなります。開業当初からすべての医療機器を揃えたいと考えるのは自然なことですが、実はこのような考え方がキャッシュフローを圧迫し、経営を困難にしてしまうケースが少なくありません。
今回は、開業時の医療機器投資において、どのような順番で設備を導入していけばよいのか、そして購入とリースのメリット・デメリットについて詳しく解説いたします。
開業時の資金計画と医療機器投資の現実
クリニック開業に必要な資金は、診療科目によって大きく異なりますが、一般的に5,000万円から1億円程度とされています。この開業資金の内訳を見ると、医療機器費用は相当な割合を占めることが分かります。
例えば、内科クリニックの場合、開業資金5,000万円~8,000万円程度のうち、医療機器費用だけで3,000万円程度が必要となります。CT装置やMRI装置を導入する場合には、2億円を超える開業資金が必要になることもあります。
クリニック経営が行き詰まる原因としては、収入減少(集患の失敗)、診療報酬引き下げ・コスト増加、過大な設備投資等による資金繰りの悪化、人材不足・スタッフ離職、広告費への過剰依存等があり得ますが、医療機器への投資意思決定もここに挙げられていることに留意が必要です。
医療機器の稼働率を上げることが重要
医療機器への投資を考える際に最も重要なポイントは、稼働率の向上です。高額な医療機器は、稼働率を高く維持することで投資回収を早める必要があります。設備投資の判断基準として、「投資回収期間法」があり、これは投資額を回収する期間の長さによって投資の可否を判断する方法です。
投資回収期間=投資額÷期間効果(期間あたりに得られるキャッシュフロー)
医療機器の選定に際しては、その機器を導入することにより、増収がどのくらい見込めるのか、何年使用することで設備投資額を回収可能なのか、何年使用する予定があるのかを慎重に検討することが必要です。
多額投資をしたのに使わないとなれば費用負担が重くなる
開業当初に多額の設備投資を行ったものの、実際には十分に活用されない医療機器を抱えてしまうケースが多々見られます。このような状況は、クリニックの経営にとって大きな負担となります。
設備投資が多額になると、それだけ資金分岐点が上がり、多くの患者を診察しなければ採算が取れなくなります。開業初期は患者数を十分に獲得できない可能性があるため、過度な設備投資は経営を圧迫する要因となります。
医療機器の導入にあたっては、診療報酬との関係を明確にすることが重要です。診療報酬という対価が設定されている設備投資については、投資額に対し回収額の計画が立てやすく、設備投資の可否の判断も比較的行いやすくなります。
一方で、診療報酬の対価がない設備投資については、建物の増改築などのように、直接的な収益向上に結びつかない場合があり、より慎重な検討が必要です。
徐々に手を広げるのが鉄則
成功するクリニック経営においては、段階的な設備導入が鉄則とされています。開業初期は必要最低限の設備に留め、経営が安定し、収益が上がってから徐々に必要な機器を導入していくアプローチで検討することをお勧めしています。
段階的な設備導入の利点は、キャッシュフローを維持しながら実際の医療需要に合わせて柔軟に対応できる点にあります。例えば、開業直後は基本的な診療設備に絞り、患者の反応や紹介患者の特徴などを分析した上で、徐々に需要が高まる領域に的を絞って追加設備を導入することで、投資効率を高めることができます。
借りて買うか、リースにするか
医療機器の導入方法として、購入(融資を利用した現金購入)とリースという選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、機器の特性や診療所の経営状況に応じて選択することが重要です。
購入のメリット・デメリット
購入のメリット
– 総支払額を抑えることができる
– 所有権が取得でき、自由に使用・処分が可能
– 特別償却制度の適用を受けることができる
購入のデメリット
– 初期費用が高額になる
– 新機種への変更が困難
– 設備に関する事務処理が煩雑になる
リースのメリット・デメリット
リースのメリット(主にオペレーティング・リースの場合)
– 初期費用を抑えることができる
– 設備導入に伴う事務管理の省力化(固定資産税、保険料の支払いなどはリース会社が負担)
– 機器ごとのコストや投資効果の把握が容易
– 最新鋭の機械設備を導入することで物件の陳腐化を防ぐことができる
リースのデメリット
– 総支払額が割高になる
– 基本的に途中解約できない
– 仕様変更が難しい
機器の特性による選択基準
医療機器をリースか購入かを判断する際には、まず機器の耐用年数を考慮する必要があります。
技術革新の速い分野の機器、例えば電子カルテ、内視鏡システム、超音波診断装置などは、数年で新機種が登場することも多く、これらの機器はリースを選択することで、常に最新技術を導入できる利点があります。
税法上の特典はリースだと受けられないケースがある
医療機器の導入において重要な検討材料の一つが、税法上の特典です。購入とリースでは、税務上の取り扱いが大きく異なります。
医療機器の特別償却制度
医療機器を購入した場合、一定の条件を満たすと「医療用機器等の特別償却」「中小企業投資促進税制」等の適用を受けることができる可能性があります。
一方、リース契約では、特別償却や税額控除の税務上の特典を受けることができません。
税務効果の比較検討
特別償却の最大のメリットは、初年度の税負担を軽減し、キャッシュフローの改善が図れる点です。ただし、特別償却の効果を得るためには、一定の利益が出ているクリニックであることが前提となります。赤字の場合には税負担が発生しないため、特別償却の効果が得られません。
開業当初で赤字が見込まれる場合は、費用化を急ぐメリットは薄れるため、自院の収益計画と照らし合わせて検討することが重要です。
まとめ
医療機器への投資は、クリニック経営の成功にとって重要な要素ですが、開業時にすべてを揃える必要はありません。むしろ、段階的な設備導入こそが、健全なキャッシュフローを維持し、持続的な経営を実現するための鉄則と言えるでしょう。
機器の稼働率を常に意識し、実際の診療需要に基づいて投資判断を行い、購入とリースの特徴を理解した上で最適な選択をすることが重要です。特に、税法上の特典についてはリースでは受けられない場合があることを十分に理解し、総合的な判断を行うことが求められます。
開業を成功に導くためには、まず基本的な医療機器から始め、経営が安定してから徐々に設備を拡充していく戦略的なアプローチを取ることをお勧めします。
医療機器への投資でお悩みの際は、税務面も含めた総合的な経営判断が必要です。西原会計事務所では、医療機関の開業支援から設備投資計画まで、豊富な経験を基にサポートさせていただいております。お気軽にご相談ください。