この記事では、まずどのようなときに融資を検討するのか?何から決めなければいけないのか?を解説します。次に、金融機関にはどのようなところがあり、どのような特徴があるのかについて触れています。最後に、実際の申込みから面談・審査の進め方についてもご説明しています。1.融資を受けるタイミングクリニックを開業しようと考えたとき、やはりその開業資金をどう工面するかが最も気がかりなことなのではないかと思います。多くの場合、自己資金だけで開業することはできませんので、融資を受けることを検討することになります。この融資について、いつ検討をスタートすべきかをご説明します。1-1.資金が必要となるのはいつか?資金を借りるのですから、いつ資金が必要になるかをまず考えましょう。それまでに資金を借りなければ先に進めませんので、いつどのように資金が必要になるかを考えましょう。クリニックの開業で最も資金が必要となるのは、物件・内装工事関係と、医療機器です。このうち、物件・内装工事関係のための資金がまずは必要になります。1-2.借りるには何を決めなければいけないか?どのようなところから資金を借りることができるかは次章「2.どこから借りるか?」でご説明します。まずは、どのような金融機関でも共通するような、借りるにあたって事前に考えておくべきことについて見ていきましょう。1-2-1.借入金額なんといっても、借入金額(融資希望額)を決めることが重要です。この後に返済期間等の条件についてもご説明しますが、借入金額が最も重要なファクターです。まず最初に資金が必要となるのは物件・内装工事関係の支出ですが、その先の医療機器の購入や、開業後の資金繰りについても、この段階で「資金計画」にしておく必要があります。この「資金計画」を作成するにあたっては、「認定経営等革新支援機関」となっている税理士を関与させることが望ましいです。金融機関の担当者も、その相手が融資に慣れている税理士であれば、話が早いとの印象を持ちますので、交渉上も有利に働く可能性があります。また、「資金計画」を作成するうえでは、設計事務所・内装施工会社も関与させて良いでしょう。物件候補が見つかって、いざ資金計画をブラッシュアップしようというときに、その物件がクリニックには適さない物件である可能性があるからです。このような可能性は、業者を選定する前であっても見積段階で意見をもらっておくと良いでしょう。1-2-2.返済期間返済期間については、月々の返済額に落とし込んで考えると検討しやすくなりますので、そのようなシミュレーションをしておくべきでしょう。診療科や地域によって開業に必要となる資金も異なり、ひいては借入金額も変わってきますので、返済期間が一般的にどれほどかをご説明することは難しいのですが、10年程度を設定することも珍しくありません。また、返済期間については、一部の金融機関を除き、短くする方向での変更(繰り上げ返済)を検討することは比較的容易ですが、その逆は難しいです。そうしたことを踏まえると、無理のない返済期間として希望を出しておくべきといえるでしょう。1-2-3.金利:変動/固定金利については、変動金利と固定金利があります。変動金利とは、市場での金利相場に連動して、借入の金利も変わるものです。固定金利とは、融資期間にわたって、当初に契約した金利のままであるものです。この記事を執筆している2024年春では、5〜10年スパンで考えたとき、金利は低い水準にあり、これ以上下がることもあまり考えられない状況ですので、固定金利で契約しておく方がメリットがあるように思われます(私論)。1-2-4.返済方法:元利均等/元金均等返済方法には2つあります。似通った名前なのですが意味が異なります。元利均等返済とは、元本と利息を足した金額が一定額である返済方法をいいます。したがって、この返済方法では、月々の返済金額は一定で、その内訳をみると徐々に元本の返済部分が増加していくことになります(反対に利息部分は減少していくことになります)。一方、元金均等返済とは、返済額のうち元本のみだけが一定額である返済方法をいいます。言い換えれば、利息部分は一定ではありません。借入当初は元本がまだまだ多く残っていますので、利息金額も大きいです。返済が進んでいくと元本が少なくなっていきますので、毎月の返済での利息金額は小さくなり、返済金額も徐々に少なくなっていきます。1-2-5.保証料に注意後の「2.どこから借りるか?」でも詳しくご説明するのですが、「マル保融資」といい、信用保証協会による保証をつけた融資があります。このケースでは、信用保証協会に「保証料」というものを支払うのですが、これが実質的に利息と同じようなものです。したがって、信用保証協会の保証を付けなければいけない融資の場合には、保証料も加味した実質的な利息がどの程度になるかに注意しましょう。1-2-6.担保・保証人日本政策金融公庫をはじめ、無担保・無保証人でも融資を受けられる場合があります。不測の事態に備え、なるべく担保・保証人が必要とされない融資を選択するのが良いでしょう。しかし、民間金融機関の場合には無保証というのは難しい場合もあります。2.どこから借りるか?通常の事業者の場合は、日本政策金融公庫・地方銀行・信用金庫・信用組合ぐらいしか選択肢が無いのですが、医師・歯科医師の場合は、その選択肢が比較的多いです。開業資金が必要になってしまいますので、その証左かもしれません。いずれにしても、有利な条件を引き出して契約することが重要です。各金融機関の基本的な位置付けや制度についてご説明します。2-1.日本政策金融公庫まず検討するのは日本政策金融公庫です。日本政策公庫には「新規開業資金」という制度があり、これを利用することになります。新規開業資金は、開業から7年以内の事業者が使用できることの制度です。融資の上限額は7,200万円で、運転資金であれば上限は4,800万円とされています。「運転資金」「設備資金」についてご説明します。「運転資金」は、語弊を恐れずにいえば、設備資金以外の資金だと理解しておいて良いでしょう。「設備資金」は、土地・建物・内装費といった、設備そのものに要する資金です。設備資金の融資を受けた場合は、実際に設備の支出をした際に、その証拠書類を提出することになります。金利については、「基準金利」として定められた金利での融資になりますが、認定経営等革新支援機関として登録している公認会計士・税理士が関与することで、「特別利率A」という、低い金利を適用できる可能性があります。2-2.独立行政法人医療福祉機構医療福祉機構が行っている「医療貸付事業」も視野に入れて良いでしょう。この医療貸付事業は、診療所等を整備する際に必要となる資金を「長期・固定・低利」で融資することをその事業の目的としています。代理貸付申し込むにあたっては、「直接貸付」「代理貸付」のいずれかの方法で行うのですが、新規に開業する診療所は「代理貸付」とされています。この「代理貸付」とは、医療福祉機構で直接申し込み等の手続きを行うのではなく、代理店となっている金融機関で手続きを行うことになります。この代理店は、都市銀行・地方銀行・信用金庫・信用組合など多くの金融機関が代理店となっています。代理店を経由することや、その他にも、必ず担保が必要になるため、手続きに時間・手間がかかる傾向にあります。融資額融資額は、「所要額×融資率(※)」または「担保評価額×80%」の低い方が上限とされています。(※)融資率は、診療所の場合には70%以下ということになっています。繰上返済/弁済補償金クリニック経営が順調に進むと、融資を早期に返済する余裕が生まれてくるかもしれません。本来の期限よりも早く返済することを「繰上返済」といいます。医療福祉機構の借入では、繰上返済を行うと「弁済補償金」を支払わなければなりません。この点が他の金融機関と比較した際のデメリットといえるでしょう。この「弁済補償金」は、早期に返済することにより支払わなくなった利息相当額を、弁済補償金として請求されるものです。実質的には、繰上返済を行うメリットがなくなってしまいます。診療所過不足検索福祉医療機構「医療貸付事業」のホームページには、「診療所への融資のごあんない」があります。そこには「診療所過不足検索」というものがあり、都道府県ごとの診療所の多寡の状況がまとめられています。地域によっては、原則として、新設のための融資が対象外となる可能性があります。〈一般診療所の「充足地域」の例〉(2024.4.1〜2025.3.31)東京都 :中央区、目黒区、世田谷区、渋谷区、豊島区、武蔵野市神奈川県:鎌倉市、逗子市千葉県 :(該当なし)埼玉県 :(該当なし)2-3.医師会資金の融資を行うには「貸金業」として、金融庁に登録しなければなりません。医師会自体は「貸金業」を行っておらず、都道府県ごとに存在する「医師信用組合」や、その地域の金融機関の斡旋を行っています。たとえば、東京都には「東京厚生信用組合」という金融機関があり、東京都とその周辺エリアの医薬業等を行う事業者に融資を行っています。京都府では、医師信用組合がないものの、京都府医師会で融資あっせん制度を用意しています。2-4.医師信用組合概ね都道府県ごとに、医師信用組合が存在します。開業資金を検討する際は、選択肢になります。融資限度額が比較的高く、上限額を懸念する必要はないでしょう。一方、担保・保証人が必要となることが多いようです。担保は、不動産に根抵当権または抵当権を設定し、保証人は、配偶者を保証人とするよう要求することが多いようです。(埼玉県医師信用組合の例)2-5.商工会議所商工会議所には「小規模事業者経営改善資金」(通称:マル経)という制度があります。この制度は、商工会議所等で経営指導(原則6ヵ月以上)を受けた方に対し、無担保・無保証人で日本政策金融公庫が融資を行う制度です。上限額は2,000万円、返済期間は運転資金であれば7年以内、設備資金であれば10年以内とされています。この制度は、医師に特化した制度ではないのと、上限額が2,000万円とされていることから、開業資金の調達方法としてはあまり向いていないかもしれません。2-6.地方公共団体:制度融資地方公共団体(都道府県・市町村)が、自ら、診療所(クリニック)に向けて融資を行うことはありません。結局のところ、民間金融機関(地方銀行・信用組合・信用金庫など)から借りることになるのですが、その融資条件を有利にできるかもしれません。地方公共団体は、利息や保証料について、金融機関・信用保証機関に対して援助を行っており、比較的低利で借りることができる可能性があります。(川口市の例)2-7.民間金融機関民間金融機関には、都市銀行、地方銀行、信用金庫・信用組合、信用保証協会という存在があります。それぞれの役割についてご説明します。2-7-1.信用保証協会信用保証協会は、それ自体が融資を行うことはありません。もし、返済が困難になったとき、信用保証協会は金融機関に代位弁済(肩代わりして返済)します。この信用保証協会があることにより、金融機関は、事業者に対して、リスクを抑えて融資をすることができます。一方、借手である事業者としては、金融機関に対する利息の他に、信用保証協会に対する保証料を支払う必要が出てきます。この保証料は、実質的には利息と変わりませんので、融資条件を検討する際には、保証の要否、保証料の金額も含めて検討する必要があります。なお、日本政策金融公庫から融資を受ける際は、この保証が必要ありません。2-7-2.マル保融資/プロパー融資「2-7-1.信用保証協会」でご説明した、信用保証協会による保証が付されている融資のことを「マル保融資」といいます。反対に、信用保証協会による保証なしで行われる融資のことを「プロパー融資」といいます。2-7-3.地方銀行地方銀行には、「第一地方銀行」と「第二地方銀行」があります。「第一地方銀行」は、一般社団法人全国地方銀行協会に加盟している銀行のことをいい、都道府県ごとに1行ずつ存在します(例外もあります)。「第二地方銀行」は、一般社団法人第二地方銀行協会に加盟している銀行のことをいい、第一地方銀行に比べて小規模な金融機関であることが多いです。規模の大きい金融機関は、大手企業をターゲットに営業活動を行っているので、新規開業にあまり積極的でないケースがあります。一方、地方銀行など比較的規模の小さい金融機関は、新規開業であってもしっかり検討してくれますので、地方銀行や、後に述べる信用金庫・信用組合を選択肢とすると良いでしょう。地方銀行によっては、医師の開業に向けて、独自の商品ラインナップを用意していることがあります。関東圏内の地方銀行での例には、次のようなものがあります。・横浜銀行|〈はまぎん〉開業医ローン クリニックサポート・武蔵野銀行|むさしの「メディカルパートナー」・千葉銀行|メディカルローン2-7-4.信用金庫・信用組合信用金庫・信用組合は、市町村レベルを商圏としており、地元に密着した金融機関です。小規模事業者への融資をメインに行なっていますので、選択肢として検討しましょう。話は少し変わってしまいますが、クリニックの経営をしていくうえでは、窓口で現金を扱います。釣り銭を用意する必要もありますので、クリニックの最寄りの支店がどの金融機関かは確認しておきましょう。その金融機関から開業資金の融資を受けるのも一手でしょう。関東圏内の、地方銀行・信用金庫・信用組合の主な商圏(本店所在地別)にまとめた記事がございますので、そちらもご覧になっていただければと思います。3.申込みから融資までの流れ3-1.融資条件の確認まずは、融資条件を確認します。融資条件とは、「1-2.借りるには何を決めなければいけないか?」のところでご説明した借入金額、返済期間、金利(利息)、返済方法、保証料、担保・保証人の有無などです。3-2.書類の提出金融機関から指定された書類を提出します。主に、以下のような書類を提出することになります。・事業計画書(理念、経営方針、資金計画等を示したもの)・診療圏調査に関する資料・内装工事の見積書・医療機器の見積書・運転免許証・マイナンバーカード(本人確認書類)のコピー・医師免許証のコピー・「給与所得の源泉徴収票」のコピー(以前の勤務先から年始に受け取るものです)・預金通帳のコピー(自己資金の金額がわかるもの)・保証人予定者の運転免許証・マイナンバーカード(本人確認書類)のコピー3-3.面談面談で話す内容は大きく以下のとおりです。経歴・ご家族・動機などについて医師の基本的な事柄についてヒアリングされます。ほぼ確実に行われるでしょう。事前提出資料の内容の確認事業計画書など、事前に提出した資料をなぞるような形で面談が始められることが多いです。この意図は、開業する医師が自らその内容を理解しているかを確かめるためでしょう。より詳細な内容の質問事前提出資料よりも、さらに詳細な事業計画や、特に注力したい点をヒアリングされる場合があります。これまでの実績について質問が及ぶこともあるでしょう。3-4.審査金融機関では、資料のやり取りや面談を担当する方とは別の審査部署があります。提出資料や面談でのヒアリング内容を総合して審査し、融資が可能かどうか判断されます。申し込む側としては、この期間にできることは特に無いので、結果を待つのみです。3-5.融資実行(着金)審査が通ると、融資が実行され、実際に資金が手元に入ります。4.代替的な手段4-1.リース医療機器は、購入ではなくリースということも選択肢に入るかと存じます。この場合、借入金額を少なく済ませることができる反面、月々の支出は多くなる傾向にあります。シンプルに考えれば、買うのか借りるのかという判断になりますので、どちらの方がメリットがあるのかを検討しましょう。5.補助金・助成金をどう活用するか5-1.いつ補助金・助成金を受け取れるかに注意補助金・助成金は、基本的には、実際に支出をした後に、事後的に補填してもらう形になります。そのため、一時的には資金を調達する必要がありますので、事前に受け取れる補助金・助成金でない限りは、借入金額を少なくする効果は期待できないでしょう。とはいえ、事後的にであっても、受け取れるものは積極的に検討すべきですから、開業資金の融資とは切り分けて進めていくのが無難です。おわりに開業資金の調達方法として、その検討時期、主な融資条件、金融機関の種類や特徴について説明してきました。クリニックの開業資金の調達は、通常の融資では取り扱わない金融機関も登場し特殊性があります。また、認定経営等革新支援機関を関与させることで金利の優遇措置を取れる可能性もあります。西原会計事務所では、開業前の資金調達の段階から医師・歯科医師のみなさまをサポートしていますので、ぜひお気軽にご相談ください。