医院・クリニックでは、物件や医療機器の選定、資金集めなど開業までに行うべき手続きが山積みです。この記事では、開業資金についての考え方を具体的に解説します。開業する診療科によって異なる内容、地域によって異なる内容にはどのようなものがあるか?や、開業資金を調達する際の金融機関はどこあたれば良いか?などをご説明します。1. 資金計画医療クリニックの開業で検討することは多岐にわたります。その中でも、資金計画をどのように立てるかは経営上重要な課題となります。資金計画を考える際には「不動産」「動産」「運転資金」の3つに分解して検討すると、考えやすくなります。1-1. 不動産(土地、建物)まず「不動産」についてですが、これは「土地」と「建物」のことです。クリニックを開業するための「ハコ」にあたるものです。これらをどのように入手するかを考えていきます。次の章でも詳しく解説しますが、「買う」か「借りる」の選択をすることになります。1-2. 動産(医療機器、備品など)次に「動産」についてですが、これは医療機器や什器・備品のことだと考えてください。診療・治療を行うにあたって実際に使うモノと考えていただければ差し支えないです。こちらも「買う」か「借りる」かの選択を行っていくことになりますが、特に高額になりうる医療機器については、戦略的にその必要性を検討していかないと、金額が青天井になってしまいます。1-3. 運転資金最後に「運転資金」です。医療クリニックは、基本的には医師1名では開業できません。医師のほかにも、看護師・医療事務のスタッフなどのメンバーを必要とします。しかし、開業したからといって、すぐに患者が来るわけではありません。先生のことを認知し、評判を聞きつけて、少しずつ増えていくものです。そうすると、最初の数カ月は、「患者がいないのに人件費を支払わなければいけない」という状況になってしまいます。この期間をなるべく少なくするように努力していかなければいけませんが、その期間を耐え凌ぐための資金も必要です。これが「運転資金」の意味するところです。2. クリニックの不動産医療クリニックを開業するには、「土地」が必要です。譲ってもらう、買う、借りるのいずれかの方法で入手しなければ診療所を開設することはできません。2-1. 土地一戸建て開業一戸建て開業においては、住居兼診療所の建物を自ら築くことになります。診療所部分については次の「借地」のケースもご覧ください。住居部分については、マイホームですから、どこまでこだわるかによってかなり変わります。鉄骨造での平均的な坪単価は約90万円〜100万円程度が実勢相場のようです。40坪×3階建てということであれば、1億2,000万円程度を見積もることもあり得るでしょう。1階の診療所部分だけ考えれば、4,000万円程度ということになります。借地土地を借りて、診療所建物をその上に立てるケースがこちらです。借地借家法によれば、更新の定めのある借地契約で、期間の定めがある契約では、契約期間が30年以上とすることになっています(期間の定めがない場合には、契約期間が30年とされます)。この期間が満了になると、貸主である地主に対して、更地で土地を返さなければいけなくなります。このことを踏まえると、診療所建物は木造で立てることが多いようです。税法上の減価償却の観点からも、その方が有利といえます。木造での平均的な坪単価は約50〜60万円程度が実勢相場のようです。40坪×60万円とすれば、2,400万円程度を見積もることになります。クリニックレント / テナントクリニックレントや、ビルの1区画をテナントとして借りる場合には、自ら建物を保有することはなく、その代わりに賃料を支払うことになります。開業資金としてのまとまった資金として加える必要はなくなりますが、開業後の月々の支出を増加させることになります。2-2. 建物建物についても、買うか借りるかの方法で入手することになります。一戸建て開業一戸建て開業においては、住居兼診療所の建物を自ら築くことになります。診療所部分については次の「借地」のケースもご覧ください。住居部分については、マイホームですから、どこまでこだわるかによってかなり変わります。鉄骨造での平均的な坪単価は約90万円〜100万円程度が実勢相場のようです。40坪×3階建てということであれば、1億2,000万円程度を見積もることもあり得るでしょう。1階の診療所部分だけ考えれば、4,000万円程度ということになります。借地土地を借りて、診療所建物をその上に立てるケースがこちらです。借地借家法によれば、更新の定めのある借地契約で、期間の定めがある契約では、契約期間が30年以上とすることになっています(期間の定めがない場合には、契約期間が30年とされます)。この期間が満了になると、貸主である地主に対して、更地で土地を返さなければいけなくなります。このことを踏まえると、診療所建物は木造で立てることが多いようです。税法上の減価償却の観点からも、その方が有利といえます。木造での平均的な坪単価は約50〜60万円程度が実勢相場のようです。40坪×60万円とすれば、2,400万円程度を見積もることになります。クリニックレント / テナントクリニックレントや、ビルの1区画をテナントとして借りる場合には、自ら建物を保有することはなく、その代わりに賃料を支払うことになります。開業資金としてのまとまった資金として加える必要はなくなりますが、開業後の月々の支出を増加させることになります。2-3. 内装新たに建物を立てる場合には、内装工事として別途検討する必要はないでしょう。しかし、テナントを借りる場合には、クリニックに適した内装にすべく、工事を行う必要が生じてきます。一戸建て開業 / 借地 / クリニックレント一戸建て開業・借地で新たに建物を建設する場合には、希望の内装となるように工事を発注することになるわけですから、別途内装工事費用を見積もるというよりは、建物そのものの費用として考えることが多いです。クリニックレントの場合には、クリニックを運営するのに適した形で既に内装が施されている場合がほとんどですので、追加的な費用は、あったとしても限定的です。テナントテナントを借りてクリニックとして改装するには、内装工事が必須となります。診療科目や設備によって内装工事の仕様は大幅に変わりますが、一般的な内容ということでご説明します。物件の仕様には「スケルトン」と「事務所仕様」があります。医療クリニックにおいては部屋数を多くするような、やや特殊な内装工事を行うことになりますので、「スケルトン」、すなわち何もないまっさらな状態の方が、余分な解体費用や原状復帰費用が発生しないので、割安になるケースが多いです。この「スケルトン」を前提にすると、内装工事は約60〜80万円程度が目処となるようです。40坪×70万円とすれば、2,800万円程度を見積もることになります。3. クリニックの動産(医療機器、備品など)3-1. 医療機器クリニックの動産として、金額的にもインパクトが大きいのは(ご想像のとおりかと思いますが)医療機器です。医療機器は、診療科目によって大きく異なりますので、診療科別に開業資金の相場感を確認することが重要になってきます。予算にも限りがありますので、欲しいものすべて、というわけにはいかないのが実情です。最低限必要なもの・先生の強みに応じて差別化するために用意するもの、といったように、戦略的に必要物品を検討していく必要があります。次の章では、診療科目ごとに具体的にその概略をご説明します。3-2. 備品、什器など備品、什器については、診療科目によって特徴的なものも中にはありますが、比較的どの診療科目でも共通する物品の方が多いです。電子カルテは100〜200万円程度の金額が必要になってくるケースが多いです。また、椅子・机の類は、特に診察の最中などに負荷がかからないものであれば医療用として購入する必要まではないケースもあります。医療用としてこれらの備品を購入すると、1つ1つが高額になってしまいますので、一般向けの商品で代替できないかは検討の価値があるでしょう。4. 診療科別の開業資金(医療機器)4-1. 一般内科「一般内科」や単に「内科」と標榜して、患者に敬遠されないようにすることは経営上重要です。しかし、医療機器はその先生の専門性によって変わってきますので、後に説明する「循環器内科」「消化器内科」「腎臓内科」「糖尿病内科」の項目をご覧いただければと存じます。4-2. 整形外科整形外科が備える医療機器で、もっとも高額なものといえばMRIです。これは、6,000万円〜1億円程度ともいわれており、これを最初から導入するよりも、MRIについては他院を紹介するケースが多いです。これを除くと、レントゲン装置が次に高価な機器となります。レントゲンの撮影装置と、その画像処理のソフトウェア、合わせて約1,000万円程度を見積もることになります。続いて、密度測定装置や超音波検査装置が高価になります。それぞれ約500万円程度は見たほうが良いでしょう。さらに、リハビリテーション(理学療法)・物理療法(電気治療)のための機器が必要になります。ウォーターベット・牽引装置・鏡等で、100万円単位の金額になります。 4-3. 眼科眼科における主な手術としては、白内障手術、緑内障手術、網膜硝子体手術、レーシック、ICLなどがあります。これらをどこまで診療所内で対応するかどうかによって、開業資金は大きく異なります。この点の意思決定が眼科開業における最初の大きな分岐点といえます。4-4. 小児科小児科は、医療機器の初期投資が比較的少なく済む傾向にあります。レントゲン装置は必須ではないものの、これを導入するかどうかが金額的には影響の大きい意思決定になります。その他に必要な機器としては、吸引器、ネブライザー、イルミネーターなどが挙げられます。4-5. 皮膚科皮膚科は、保険診療のみの場合は、初期投資で必要な設備が少なく済むようです。美容系のレーザー治療器を導入するかどうかという点が大きな分岐点といえるでしょう。それ以外の支出としては、顕微鏡・滅菌器などが挙げられますが、これらは約200〜300万円程度で調達可能と見積もって良いかと存じます。4-6. 耳鼻咽喉科耳鼻科では、診察のための機器として、診察ユニット・電動椅子(診察用)・内視鏡とその洗浄機を用意することになろうかと思います。また、検査のために、インピーダンスオージオメーター、オージオメーター、聴力検査室を用意しておくことが多いようです。また、診察後の処置ではネブライザーを用いることになります。ここまでに挙げた機器はそれぞれ100〜200万円程度はかかりますので、合計で2,000万円程度を見積もることになります。4-7. 精神科・心療内科精神科・心療内科では、医療機器はあまり必要になりませんので、開業資金としては抑えられる傾向にあります。4-8. 産科・婦人科産科・婦人科については、「産婦人科」として開業するケースが最も多く、「婦人科」のみで開業するのは「産婦人科」のおよそ4分の1程度です。「産科」のみで開業することは稀ですので、「産婦人科」か「婦人科(のみ)」かを、まず明確にすることになります。そして、「産婦人科」の場合には分娩(出産)に対応するかどうかは大きな意思決定となります。医療機器の面では、「婦人科」では超音波検査装置(エコー)、内診用内視鏡(コルポスコープ)がやはり高価で、それぞれ約200〜300万円を要します。診察ユニットや検診台も次いで費用のかかるところになります。「産婦人科」では、「婦人科」で必要となる機器に加え、「産科」ならではの機器を用意することとなりますが、その中でも金額的に多額となるのは、分娩監視装置です。分娩に対応する場合には高額な医療機器というよりも、施設面での初期投資が大きくなります。これは病床数によってかなり増減することになります。機器としては陣痛ベッド、インファントウォーマーなどが挙げられます。4-9. 消化器内科(胃腸内科)消化器内科は、内科と標榜する中でも診療所の数が多く、地域によっては他との差別化をシビアに意識しなければならないこともあります。そのため、設備面でもやや強気な投資が必要になることもあるでしょう。主要な機器としては、X線撮影装置、内視鏡、超音波診断装置(エコー)が挙げられます。最新機種を導入するか最初は中古で揃えるか、など様々な選択肢がありますが、約2,000万円〜3,000万円程度を覚悟しておく必要があるでしょう。4-10. 循環器内科循環器内科では、使用する頻度としては心電図が多くなるかと思いますが、設備面ではX線撮影装置、超音波検査装置(エコー)の金額が嵩みます。また、それ以外の必要な機材としては、負荷心電図計、血圧脈波検査装置が挙げられます。これらの主たるもので約2,000万円程度を見積もることになります。4-11. 呼吸器内科呼吸器内科は、X線一般撮影による検査・診察が中心になろうかと思いますので、これは必須でしょう。約1,000万円程度を見積もることが多いでしょう。CTまで院内に設けるかどうかは戦略的な意思決定が必要です。CTは約2,000万円程度を要することが多く、その本体も大きいですから、大きなテナントを必要としたり部屋数を増加させることになり、建物の造りにも大きな影響を及ぼします。4-12. 糖尿病内科(代謝内科)糖尿病内科は、透析治療に対応するかどうかで、全く異なる診療所経営になります。「医療法上の疑義について(昭和50年2月1日/医第2250号)」によれば、透析用ベッドは病床としては扱わないため、診療所でも20床以上の透析病床を用意していることがあります。20床以上を設けるとなると、建物としてもそれ相応の面積が必要になり、透析装置の金額も多額に及びます。経営上の観点では、どの程度の透析患者を受け入れるかが最重要の検討ポイントとなります。一方、透析治療を行わない糖尿病内科では、血液検査、HbA1c測定装置がその中心的役割を担うことになるかと存じます。この場合、医療機器としては約300万円〜400万円程度で足りる場合もあるようです。4-13. 泌尿器科泌尿器科での主な設備では、超音波検査装置(エコー)、X線撮影装置が高額となります。次いで、尿流量測定装置、尿検査装置等が挙がります。総額としては約2,000万円〜3,000万円となることが多いようです。4-14. 脳神経外科・内科脳神経外科・内科の開業では、MRI・CTを院内に設けるかどうか、これが最大の分岐点です。院外の検査機関を設けることも考えられますが、検査機関までの距離が離れている場合には、そのような計画ではなかなか厳しくなってしまうでしょう。この意思決定により約8,000万円〜1億円異なってくることになります。4-15. 在宅診療在宅診療の場合、高額な医療機器を用意することはないでしょう。クリニックの建物から外に出ている時間が長いですから、それを前提にした電子カルテシステム等の導入は必要ですが、数百万円程度を見れば良いので、他の診療科とは1桁違うことになります。5. 開業場所による必要資金の違い「1−1.必要資金の考え方」では、「不動産」「建物」「運転資金」に分解して捉えると考えやすくなるとご説明しました。開業場所によってどれぐらい開業資金に影響があるのか?ということも、この分解をもとに考えるとわかりやすいです。5-1. 開業場所によって変わるもの・変わらないもの不動産については地域差がありますが、動産については基本的に地域差がありません。運転資金についても、看護師や事務スタッフの人件費は、最低賃金の影響も受けつつ多少の差はあるものの、多額には及びません。そのため、特に不動産について、地域差がもたらす開業資金への影響をご説明していきます。土地土地は、立地による価格差にかなりの開きがあります。この点については次の項で詳しくご説明します。建物建物は、土地に比べれば、地域は少ないです。とはいっても、国土交通省の公表する「建築着工統計調査 建築物着工統計」より、都道府県別の「医療,福祉用建築物」の「建築予定費」を求め、これを坪単価にすると地域差が認められます。上位5位を挙げると、鹿児島県、東京都、千葉県、佐賀県、徳島県となり、1坪あたりの建築費は130〜155万円ほどになります。一方、下位5位を挙げると、沖縄県、香川県、岐阜県、群馬県、栃木県となり、1坪あたり90万円程度になります。クリニックが40坪だとすると、(140万円-90万円)×40坪=2,000万円程度の開きがあることになります。5-2. 土地の価格差土地の価格を調べようとすると、「一物五価」といわれますが、様々な名称の地価ががあることにお気づきになるかと思います。「実勢価格」とは、実際に取引された土地の価格を言い、売手と買手が自由に決めるものですので、個人では調べようがありません。「公示地価」とは、国(国土交通省)が公表する土地の目安価格であり、クリニックの開業資金を見積もるうえではこれが最も参考になります。「基準地価」とは都道府県が調査した土地の目安価格のことで、都道府県や市町村が公的資金で不動産を取得する際等の参考になるものです。「路線価」とは、国税庁が調査した土地の単価のことで、路線価に土地の面積を所定の方法で乗じることによって、評価額を算出します。相続税や贈与税などの国税の基準となるものです。「固定資産税評価額」といわれるものは、市区町村が不動産ごとに評価額を算出するもので、固定資産税の計算の元となります。公示価格の調べ方公示価格を調べるには、国土交通省のホームページに公表されている「地価公示」を見るのが良いです。この中に「標準地の所在を表示する図面 」というものがあり、地図上に標準値の公示価格が示されていますので、視覚的にもわかりやすいです。都道府県によって地価にかなりの開きがあることは「2−1.土地」でも触れましたが、同じ都道府県、もっといえば同じ市町村内でも、駅前と郊外でかなりの差があることも見て取れます。リニア新幹線「神奈川県駅」周辺の公示地価5-3. 開業のコンセプトに照らして検討先生の診療科によって立地の向き不向きもあるでしょう。また、近くに競合となりうる同じ診療科がすでにあるかもしれません。先生の目指すクリニックのコンセプト・イメージを明確にしたうえで、それに適した土地の候補を探していくことが望ましいです。6. 開業資金の調達方法クリニックの開業の際には、やはり「自己資金としてどれだけ出さなければいけないか?」は心理的にもかなり気になる点だと思います。多く出すにはハードルが高いし限界もあり、できるだけ少なくというのもデメリットがあります。ここではそのメリット・デメリットを整理します。6-1. 自己資金相場先に自己資金をどれだけ用意するかの目安から申し上げると、結果的に1,000万円〜2,000万円となることが多いようです。もちろん、初期投資の少ない診療科で自己資金を出さずに済むケースもありうるかとは存じますが、極端な事例ではなく相場感を中心に検討を進めていきましょう。メリット自己資金を多く出すメリットは、利息負担が少なく済むことです。開業に必要な資金を所与とすれば、自己資金をいくら出すかの議論は、「自己資金と外部資金(≒銀行融資)のバランスを考えること」と換言することができます。そのため、自己資金を多く用意できれば外部資金に頼らなくて良くなりますので、結果的に支払う利息の負担を少なくできます。デメリット開業資金全体に占める自己資金の割合が少ないと、銀行での融資審査が厳しくなる傾向にあります。銀行も民間の企業ですから、返済されないリスクをシビアに評価することになりますが、自己資金を渋る姿勢を見せると、事業計画の信憑性が疑問視される可能性があります。6-2. 外部資金先ほどは、「外部資金≒銀行融資」とご説明しました。金融機関にはいくつかの種類があります。まずは、国が運営している「日本政策金融公庫」があります。そして、規模の大きいものから、都市銀行→第一地方銀行→第二地方銀行→信用金庫・信用組合と続きます。それとは別に医師向けの「独立行政法人福祉医療機構」があります。この機関も融資を行ってくれるので、開業資金を外部から調達する際には検討の俎上に載せるべきでしょう。6-2-1. 日本政策金融公庫「日本政策金融公庫」とは、国が運営する金融機関で、開業当初など、ハイリスクで民間金融機関が融資を躊躇するような事業者にも、補完的に融資を行うことを目的として設立されている組織です。そのため、比較的敷居が低く、低い金利で借りられることもあります。「新規開業資金」という融資制度を使って申し込むことになりますが、この融資限度額が7,200万円とされている点がデメリットです。建物を立てて開業をする場合には、土地・建物・医療機器で1億円を超える資金が必要となり、開業資金も1,000万円程度ですと9,000万円以上の資金を融資で受けることになりますが、「新規開業資金」の制度では足りないことになります。6-2-2. 独立行政法人福祉医療機構独立行政法人福利医療機構では、「医療貸付事業」というものがあり、これに申し込むことを検討して良いでしょう。比較的金利が低いことが多いです。注意しておくべきなのは、開業に必要な資金の全額を賄うことはできないという点です。医療貸付制度による融資には上限額が定められており、上限額=所要額×融資率で求められます。この融資率は条件によって異なるものの70〜80%程度になることが多いようです。自己資金が用意できる場合は除き、福祉医療機構のみで融資が完結することは少ないでしょう。また、申し込みにあたっては「直接貸付」と「代理貸付」という2つの形式があり、新規開業の診療所では「代理貸付」となります。そのため、代理業務を受託している金融機関に申し込みを行うことになります。6-2-3. 民間金融機関民間金融機関には、都市銀行、第一地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合とありますが、クリニックの開業にあたっては第一地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合を検討しましょう。都市銀行(メガバンク)は大企業をターゲットにしており、個人診療所の融資には積極的でないケースが多いです。民間金融機関の借入にあたっては、次のような条件をいかに引き出せるかがポイントとなります。・融資額・利率・無担保・無保証人良い条件を引き出すためには、認定経営革新等支援機関となっている税理士と事業計画を作成するのが最も効果的です。金融機関は「どれだけ確実に返済する実力があるか」を審査していますので、「確実に儲かる」と思わせる事業計画を提示し、それを実行する能力があると融資担当者に感じてもらうことが重要です。6-2-4. リース会社リース会社は、融資という形ではありませんが、実質的には外部資金を借りて医療機器を購入するのと負担総額は近いものになります。月々のリース料の合計額は、それを一括現金で購入した場合よりも多額になりますが、その差分が利息であると考えるのが良いでしょう。リース期間中のメンテナンス費用が含まれているなど、自ら整備する場合と比較した際のメリットもありますので、銀行融資の利率より高いからといって一概に切り捨てるべきでもありませんが、差額に見合った内容かどうかを吟味していくことになります。高額な医療機器(MRI、CT、X線、エコーなど)を導入する際には、この選択肢があることを念頭に置いておきましょう。6-2-5. 補助金と助成金郊外の一部の自治体では、開業の際の初期投資の一部を補助する補助金があります。補助率や補助額が高額ということで有名なのは、宮城県栗原市の「産婦人科医院及び小児科医院開設等助成金」や滋賀県守山市の「守山市産婦人科医院開設事業費補助金」です。これは、補助対象経費(土地建物取得費・医療機器購入費用など)の50%という補助率で、栗原市は1億5,000万円、守山市は5,000万円までが補助対象となっています。これは極端な事例ですが、市町村で行われているこのような補助金は増加傾向にありますので、見逃さずに申請しておくべきです。その他、医療機器の購入にあたってその一部を負担してもらえる補助金が都道府県から公表されているケースもあります。開業資金全体から占める割合は小さいものの、数百万円単位の補助金はまだあります。「事業承継・引継ぎ補助金」や「IT導入補助金」「トライアル雇用助成金」などがあります。7. 開業資金を抑える方法7-1. 事業承継で開業する診療所を承継する形で開業する場合は、必要資金は約2,000万円から約4,000万円程度といわれています。その診療所の設備やその地域における知名度を引継ぎ、以前からの患者を引き続き受け入れられることによるメリットがあります。一方で設備が老朽化していたり、目指したいクリニック像とは若干離れているでしょうから、その差分を埋めるための初期投資は、譲渡価格の他に必要であると考えてよいでしょう。とはいえ、1からすべてを用意するよりは、初期投資を抑えたり、スピード感を持って開業までたどり着ける可能性もありますので、この選択肢は検討すべきでしょう。7-2. 医療機器・設備を絞る必要な医療機器にも相場感があり、同一診療科・近隣の診療圏のクリニックが用意するような機器は、見劣りしないためにも一定程度用意する、という視点は必要です。一方で、機器による差別化を図ろうとするのであれば、それは戦略的に計画する必要があります。7-3. リースを活用するリースを活用することにより、初期のまとまった必要資金を、長期にわたって分散することが可能です。一方で、中長期の視点に立つと、利息相当額を支払っているのと変わらないことにもなりかねません。銀行融資との対比でリースの活用は検討しましょう。最後に:早いタイミングから税理士を探しましょう開業資金がどの程度化を検討する上で、重要になる要素をご説明してきました。金額の大きいものほど慎重に検討を進めていきましょう。具体的な数値にして考えるのは慣れないと難しく、心細く、不安に感じることもあるでしょう。開業前の段階から付き合える税理士はその支えとなりますので、融資など、実際に動かれる前に精通している税理士を探すことをおすすめします。